気象庁のホームページを見ると、2023年の関東甲信地方の梅雨入りは6月7日頃、
梅雨明けは7月19日頃となっています。芒種の頃から大暑の頃までにあたります。
6月も中旬を過ぎると本格的な梅雨となり、湿度が上がり、ジメジメとした蒸し暑い日が続くようになります。
梅雨の季節が体に及ぼす影響:湿と脾
湿度が高いと皮膚の新陳代謝が阻害され、皮膚呼吸がうまくいかなくなり、
なんとなく息苦しい、重苦しいといった症状が生じます。
また湿性の皮膚病(水虫など)や多汗症が悪化したりします。
体へ悪い影響を与える湿気を湿邪と呼びます。
梅雨は湿邪が旺盛となる時期です。
湿邪の性質は重濁粘滞。治りにくく、長引きやすく、再発しやすいことです。
五臓で「湿」と関係があるのは「脾」です。
1)脾の働きの「運化」について
水穀(飲食物)の運化と水液の運化があります。
①水穀の運化:飲食物を消化・吸収して得られた水穀の精微(エネルギーや栄養)を体全体に運ぶ働き。飲食物は胃と小腸で消化され水穀の精微となりますが、運化という脾の働きがなくては全身が栄養されません。
脾(脾胃)が元気であれば、他の臓腑もきっちり機能できると言えます。
ちなみに、脾は特定の季節と結びつくのではなく、四立(立春・立夏・立秋・立冬)前の18日間(「土用」)に旺盛となる臓で、この期間に水穀の精微を作り、その季節に合った臓を養います。(『黄帝内経』太陰陽明論篇)
②水液の運化:からだ全体の水の流れ(水液代謝)の調整
胃が消化した有益な水液を脾が吸収・運輸し、肺・腎と共に行う水液代謝。
体の余った水液は肺へ送られ、皮膚から汗となって、また腎へ送られ、膀胱から尿となって体外へ排出されますが、脾の働きが弱ると水液は体内に停滞し、むくみ、尿量減少、体が重く感じられるなどの症状が現れます。
2)気血水液を生み出す働き
水穀の精微、栄養物質を心・肺、脳へ昇らせ(昇清)、心・肺で気血を生み、
栄養を全身に送ります。水穀の精微は気血水液を生む「気血生化の源」です。
一方胃は、飲食物を受け入れて、ドロドロの状態にして(腐熟)、
下へ、腸に送り込みます(通降・降濁)。
臓腑やさまざまな器官は脾が運んでくる気血を受け取って動いているので、
脾が弱るといろいろな影響が出ます。
腹脹 食欲不振 大便が緩い 倦怠感 脱力感 疲れやすい など。
3)その他
・脾は「喜燥悪湿」、湿を嫌います。
湿は陰邪で重いので、湿邪によって脾の運化機能が低下すると、
水穀の精微を昇らせにくくなり、上記のような影響が出ます。
・蒸し暑い日が続くため気分がすぐれず、ストレスが生じ、脾を傷めます。
・「思いすぎ」、「考えすぎ」は脾の働きに影響を及ぼし、気滞、気結を引きおこします。
脾の運化機能が失調すると「思」に悪影響を及ぼします。
ところで、気功の教室で「脾気は上へ、胃気は下へ」とよく耳にすると思います。
「昇と降」、「脾の昇清・胃の降濁」。これは臓腑の相対立する運動です。
このバランスが失調すると水穀は正常に運化されず、気血を生む源が不足することになります。「脾は昇って良し、胃は降りて良し」です。
梅雨の時期の養生
・湿度が高いため皮膚の代謝機能が阻害されるので、
軽いストッレチや運動などで発汗するようにする。
・エアコンの除湿機能を有効に使う。
・風通しをよくして湿気をためない。
・汗をかいた後、冷房で体を冷やす、薄着で扇風機をかけっぱなしにするなどは、
だるさを招きます。
・湿気と水分摂取の増加、冷房などによる腹部の冷で胃腸の働きが落ちます。
冷たいもの・生もの・甘いものは脾を痛め、湿を増やすので、梅雨時は控えたほうが良いでしょう。
・冷たいものと油物のとり合わせも控えましょう。
例えば、冷え冷のビールとアツアツ唐揚げのセット。
・温かく、消化の良いものを、よく噛んで食べるように。
・思いつめないように。
梅雨の食養生
基本は「湿」を除くこと(湿邪を尿とともに排出)、脾胃を労わること。
・利水・利尿作用により体内の余分な水湿を排出させる食材
【あわ 小豆 黒豆 ハトムギ 緑豆 えんどう豆 レタス アスパラガス 空芯菜 じゅん菜 白瓜 冬瓜 とうもろこし とうもろこしの鬚 なす 緑豆もやし 黒鯛 枝豆 メロン スイカ あさり シジミ 海藻類 コーヒー 緑茶 生姜の皮 など】
・祛湿:体内に停留する湿邪を取り除く食材
【枝豆 インゲン豆 キャベツ 空芯菜 さやいんげん セロリ 空豆 豆もやし
モロヘイヤ ココナッツ かに シジミ カルダモン など】
・行気(気の巡りを促進)・理気類(気の運行を改善)
【そば しそ たまねぎ バジル 三つ葉 茗荷 など】
理気類で気を巡らし、湿を動かし、乾燥させる。
利尿作用のあるものを組み合わせて、湿邪を取り除きます。
・脾・胃の働きを正常にする
【あわ うるち米 ハトムギ 山芋 インゲン豆 枝豆 さやインゲン オクラ
ネギ アボガド なつめ 龍眼 ライチ 鱸 鱧 鴨肉 砂肝 など】
〈鶏肉と豆のカレー〉(二人分)
①生姜(ひとかけ)、玉ねぎ(1/2)は皮をむいてみじん切り。
②黒豆、小豆、大豆各20gは茹でておく。
③フライパンに油をひき、中火で玉ねぎを炒め、透き通ったら生姜、フェンネルシード(小さじ1/2)、カルダモン(3〜4粒)、ターメリックパウダー(小さじ1/2)、唐辛子粉少々を加えて炒め、鶏ひき肉(150g)を加えて炒め合わせる。
④ひき肉の色が変わったら豆、黒砂糖(小さじ1/2弱)、醤油(小さじ1)、
水(300ml)を加えて弱火で10〜15分煮込み、塩で味を整える。
・鶏肉:気を補って、お腹を温め、脾を健やかにする。
・豆類:余分な湿気を取り除く。
・スパイス:臓腑を温める。気を巡らせる。
この〈鶏肉と豆のカレー〉は、補気・利湿(湿邪を尿とともに排出)・お腹を温めるので、湿邪の影響を受けやすい脾胃の働きを助けます。
玉ねぎ、生姜、唐辛子の湿気を発散させる働きも期待できます。
〈とうもろこしご飯 黒胡椒風味〉
①とうもろこしは包丁で実をこそげ、鬚(中の白く柔らかい部分)は細かく切る。
②といでザルにあげておいたお米、粗挽きコショウ、とうもろこしの実、ひげ、芯を炊飯器に入れ、分量の水で炊く。
③炊きあがったら芯を取り除き、まんべんなく混ぜる。
・とうもろこし:栄養価の高い野菜。胃腸の働きを高める。
水分代謝を促進するので、むくみ、高血圧の予防にも。平性なので体質を問わず使えます。
・黒胡椒:お腹の冷えを温める働きが強く、湿気と雨で冷えやすい胃腸の働きを高めます。
胡椒の香りは気の巡りを改善します。
・とうもろこしの鬚
利尿作用が特に高く、生薬は玉米鬚(ギョクベイジュ)と呼ばれます。
洗って、天日で干し、よく乾いたら細かく切って、乾燥剤を入れた容器に入れておきます。お味噌汁、サラダ、ご飯などにパラパラかけて使いましょう。
・これを煎じたものが「とうもろこし茶」で、結石を排出する作用があります。
〈緑豆ご飯〉
①緑豆は柔らかくなるまで煮る。
②お米は炊く30分前にといで、ザルにあげておく。
③炊飯器に緑豆、お米、分量の水を入れて炊く。
④炊き上がったら塩で味を整える。
胃腸の調子が良くない時はお粥に仕立てください。
・緑豆:体にこもった余分な熱を冷まし、口内炎、熱のある吹き出物、腫れ物の改善に。
湿気によるむくみや下痢の解消に優れています。
暑気あたりを改善する効果が高い。
豆皮に清熱解毒の力がある。白内障やかすみ目に有効。
胃腸の弱い人は食べ過ぎないようにしてください。
夏バテ防止効果があるので、煮汁ごとスープやカレーなどに入れることで高い薬効が期待できます。
茹でた緑豆を密閉容器に入れる、あるいは小分けして冷凍しておくと使いやすいです。
〈ハトムギご飯〉
①ハトムギは一晩水につけておく。
②お米は炊く30分前にとぎ、ザルにあげておく。
③炊飯器にお米、ハトムギ、分量の水を入れ炊く。
④炊き上がったら、赤シソのふりかけを加え、混ぜる。
・ハトムギ:むくみや重だるさ、水イボ、肌荒れ。利尿作用、清熱作用など。
生薬では薏苡仁(ヨクイニン)と呼ばれています。
洗ったハトムギをたっぷりの水に一晩浸し、20分ほど茹でて、冷凍保存しておくと
いろいろな料理に使えて便利です。
茹で汁も薬効たっぷりですからスープなどに使いましょう。
ニキビ、シミ、そばかすなどにもよく、美肌効果が期待できます。
〈焙じハトムギと陳皮のお茶〉
①鍋に湯500mlを沸かす。
②沸騰したら焙じハトムギ(大さじ1)、陳皮(3g)を入れ、5分ほど煎じる。
ハトムギは利水作用を促しますが、体を冷やす性質があるので、温かいお茶で飲みます。
陳皮は気の巡りをよくして脾胃の働きを助けますから、
陳皮を加えることで、湿気で弱りがちな脾胃を健やかに保つことができます。
〈わかめときゅうりの酢の物〉
①わかめは塩抜きして適当な大きさに切る。
②きゅうりは塩もみする。
③わかめときゅうり、皮ごとすりおろした生姜を和え、酢の物にする。
・わかめ:体にこもった熱と水分を排出してむくみを解消。
・きゅうり:体の熱を冷ます。利尿作用が高く、むくみを解消する。
・生姜:体を温める作用が強い。胃腸を温め、働きを高めるので食欲不振やむくみも改善。
きゅうり(寒性)もわかめ(涼性)も体を冷やしますから、体を温める生姜を組み合わせます。生姜の皮の近くに有効成分があること、皮に利尿効果があるので皮ごと用います。
さて次回
〈季節と養生〉は
5月の食養生(立夏・小満) ・6月の食養生(芒種 / 夏至)
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